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ライブ・レポート

ワンマンライブ『ピアノと美菜呼』

    日時 : 2004年07月11日(日) 20:00〜
    場所 : 高円寺 JIROKICHI
    出演 : vocal & piano:美菜呼
          bass:平石カツミ harmonica:続木 力 percussion:石川雅康



 01.風の中のヤジロベエ
 02.恋ト呼ブモノ
 03.蛍
 04.川の歌
 05.今度引越しするんなら海の近くがいい
 06.君だけはわかっていてくれるから
 07.ひらひらら
 08.逢いたいよ
 09.ランドセル
 10.向日葵
 11.平凡
 12.Dear Friends
 13.チョコレートケーキ
 14.宝島

<encore>
 01.春風
 02.Cry for the day

2004/07/11 July


THE FOLLOWING TAKES PLACE BETWEEN 8:00P.M. AND 10:00P.M.
ON THE DAY OF THE UPPER HOUSE ELECTION.
(参議院選当日、午後8時から10時まで。)

Previously on "Minako Live Report"

大隅春香は選挙が嫌いだった。
あれからもう8年も経つのだが、春香の心の奥底には溶け残った記憶が まだ澱のように残っていた。
今回も、投票用のハガキはよく見もせずに捨ててしまった。
2004/07/11 zebra crossing
春香を美菜呼のライヴに誘ったのは、職場の後輩の三波だった。
「高円寺で、僕の応援しているシンガーのライヴあるんです。春香さん、
よかったら、いきます?」

ガム持ってるんですけど、要ります?くらいの訊き方だった。
「あ、でも春香さん僕のカノジョだなんて思われちゃうかな。これがホントの、 三波くんの恋人、なんて。」
くだらないジョークは照れ隠しで、実のところ、三波が春香を意識していること には、うすうす気づいてはいた。
今までも何度か、とても控えめに、でも明らかにそれとわかる態度で、食事や映 画に誘われたが、
その度に適当な口実を考えて断ってきた。
三波が3つ年下だとか、春香の大嫌いなバイクに乗っていることだとか、そんな 理由ではなかった。
実際のところ、少し道化が過ぎるきらいはあるにせよ、彼の、決して人の悪口を 言わないところや、 同じチームの仕事が遅い同僚に対する忍耐力を備えた優しさなどを見てきて、春 香は後輩の男の子として 以上のものを感じていたのである。はっきりとした形ではないが、好意、といっ てもよかったかもしれない。
ただ、春香はまだ、当分誰とも付き合う気は、なかった。付き合うことができ る、とも思えなかった。

2004/07/11 strap
その春香が、ライヴに行ってみようかな、と思ったのはその日がまさに参議院議 員選挙の日だったからだ。
なんとなく、何であろうと、当日に予定があること。それが、選挙に行かない自 分のプライドの ような気もしたのだ。

20:03:45 
春香はカウンターに席をとることにした。ステージに近い奥までカーヴ状に 延びたカウンター席の、一番奥にはどうやら先客がいるようだったので そこから一つ置いたところに腰を下ろす。
ここだと、ステージに背を向けることになってしまうが、しかたない。
ライヴハウス特有のオレンジの光の向こうで、先に来ていたらしい三波が軽く手 を上げるのが見えた。
春香はカールスバーグを注文すると、くるりと椅子を回し、今度はテーブルに背 を向けた。


ライヴが始まった。
白の夏の装いで笑顔の、美菜呼が出てきた。
初めの2曲を歌い終えると、 にこやかに、
「みなさん。日曜日の、いい空気です。」と 挨拶なんだか独り言なんだかわからないMCを始める美菜呼。
ジロキチのフロアを埋めた観客が、わかってるんだかわかってないんだか わからないような笑い声を生む。
笑っていいのか悪いのかわからなかったけど、春香も笑った。
出だしは、悪くない。
2004/07/11 Minako

2004/07/11 Minako
20:17:23  
唐突に美菜呼が問いかける。
「みなさん、恋をしてますか?」
ズキン、と頭の中で痛みを伴った脈がうつ。
春香にとって、「恋」は8年前に終わった言葉だった。
もう2度と恋はしない、したくない。
そう、言い聞かせて過ごしてきた。

四六時中、あなたのことを思い描いて…(「恋ト呼ブモノ」)


そう、あの頃はほんとに四六時中、信二のことばかり考えていた。
もう8年になる。1996年、17歳だった頃。
春香の高校はどちらかというとスポーツよりは学業が優秀なことで市内では通っ ていた。
学校もまたそんな校風をよしとしているのか、運動部の活動にさほど力をいれて ないようだったが ただ、テニスだけは県の上位に食い込む活躍を見せていた。
そして、あの年、信二は秋の大会に、テニス部の新部長として出場することが決 まっていた。
高2の秋ともなると、周りの生徒達は受験を見据えて勉強に多くの時間を割き始 めていたが、 信二は練習を休む事はなかった。
週末には必ず5キロのロードワークをこなし、素振りやサーブ練習を欠かさな い。
春香は模試がない日には、いつも自転車で信二の後ろを走りながら笛を吹いた。
それは応援というにはあまりに平凡な行為だったかもしれないが、春香にできる 精一杯であり、幸せな時間でもあった。


21:34:04
平凡な幸せ。
夢追ってる君。(「平凡」)
…美菜呼の声に記憶が遡ってゆく。

あの時、確かに平凡な幸せがあった。
夢の話もした。
2004/07/11 Minako

「いいなあ、信二には夢があって。」
信二は不思議そうに春香を見つめ返す。
「夢っていうか、前に進むだけなんだけどね。春香にだって、あるだろ、夢。」
「わたし…わかんないんだよね。自分の夢って。
前に進むことだって、いっつも迷ってばかりで踏み出せないし。」
…私は、信二と一緒にいられたらそれでいいんだけど。その言葉は 口の中でそっと呟く。

「じゃあさ、いつか、春香が一歩踏み出せないで迷っているときは オレが後ろから春香を応援してやるよ。ほら、いつも応援してもらってるお返し に。」

「信二が笛吹くの?」 音楽はからきしダメなのをからかうように おおげさに顔を覘き込むと、彼は、う、と一瞬うろたえて、
「いや、オレは笛は下手だから、そうだな、鈴を振るよ。 シャンシャンシャンって。」
と笑いながら言った。
その照れた笑顔が本当に好きだった。


そしてあの日、夕方、信二と春香はいつものようにランニングに出た。
いつものように学校を基点に笹川通りを東へ走り、いつものように春香は 汗で濡れ始めた信二の背中を見つめながら、ぴっぴっと笛を吹いて自転車を漕い でいた。
国道へ出る交差点では折からの衆議院選挙で、選挙カーが停まり、候補者らしい 男性がマイクで大声を張り上げていた。
信二は大音量に0.5秒ほど顔をしかめると、それと同じくらいの時間立ち止ま り、右を見て、左を見て、それから、右を見て、
そして、後ろの春香を振り返って、そのまま向きを変えながら一歩踏み出そうと した。
ちょうどその時、信二の後ろで、走ってきたバイクが転倒したのである。
「信二!危ない!」
春香が叫んだ第一声は、角に停まっていた選挙カーからの「お願いします!」の 連呼でかき消された。
「信二ぃ!」
春香の悲鳴と、異変に気づいて振り向いた信二の笑顔が一瞬とまったのと、その 笑顔が横転して滑ってきた バイクにはね飛ばされて視界から消えるのとがほぼ同時だった。


2004/07/11 sky


春香は高校を卒業すると上京してアパートを借り、独り暮らしを始めた。
とにかく、街を出たかったのだ。
今は大森にある、小さな図書館で働いている。
恋をするのは、やめた。
選挙には、一度も行ったことがない。


7曲目、「ひらひらら」そして次の「逢いたいよ」は ピアノの音色ごと、しっとりと空気が濡れていくような、そんな歌だった。

思い出に誘われて…(「ひらひらら」)
逢いたいな…逢いたいよ(「逢いたいよ」)

そんな歌詞がやたらと気にかかる。なんだか春香の思いをずっと辿ってきている かのような歌の流れ、時間の流れだった。

2004/07/11 Minako
さっき、三波がそっと近寄り、紙片を手渡していった。

「今日は思い切って誘っちゃいます。ライヴが終わったら、 近くにおいしい沖縄居酒屋、あるんですけど、ちょっと飲みにい久米仙か。」
バカバカしくて、リアルなため息が出たが、誘われるのは心地悪くはなかった。
初めて来たライヴだったが、美菜呼の歌声をきいているうちに、いつしか春香は 自分が何となく 楽しい気分になっているのに気づいていた。
2004/07/11 The members
歌はみんな、どこかで傷ついた人たちへの応援歌だった。
ランドセルも、向日葵も、Dear Friendsも、それでも、進もうとする人たちへの 応援歌だった。
いいのかもしれない。今日、ここに来たのは、神様が私にもうそろそろ頑張って 歩いていけ、って いうことだったのかもしれない。本当は三波の優しさも嬉しかった。
できるかな…やってみようかな。



「はるか…」
誰かに名前を呼ばれたような気がして我に返ると、もうアンコールの1曲目だっ た。 春風…だったのか。
ベースを弾いていた平石カツミがギターを手にとって、観客が期待の口笛まじり に騒いでいる。
ピアノに暗い照明が当たり、美菜呼はゆっくりとそれに寄りかか る。

「こんなとこで終わる為に生まれてきたわけじゃない…」

美しい声だった。ピアノと、自分をサポートし続ける平石カツミの音を 完全に信用しきって、身も心も預け、委ねきってる女の美しい歌声。

2004/07/11 Minako & Mr.Hiraishi

突然、春香を悔しさと悲しさが襲った。自分に失ったものがあることを急に思い 出す。
それを認めざるを得ないことが怖くて、呟き、唱える。
信二だって、あんなとこで終わる為に生まれてきたわけじゃなかった。 やっぱり私は自分だけ幸せになるなんてできない。
ごめんね、信二。私は、怖いの。また誰かを好きになって、そしてまた失うこと になるんじゃないかって思うと、どうしても震えが止まらないの。
だから、あなたを言い訳にさせて。
自分だけ幸せになるなんてできない、って。

2004/07/11 Shinji


ラストソング。
美菜呼は「Cry for the day」をギターに彩らせた。
春香はこの歌が好きだった。事前に三波が「予習用っしゅ。」と 渡してくれたミニアルバム「美菜呼」のラストソングにもなっていた曲だ。

「あばよって手を振って、寂しい心にBye-Bye
独りが好きなんて言わないで」

やっぱり、ダメだ。自分には踏み出せない。
知ってるの、言い訳だって事は。
ごめんね、信二。
でもね。
やっぱり、怖くて進めない。
だからこのままでいい。
…ごめんね、三波くん。誘ってくれてありがとう。
でも、私はまだ…

「あばよって手を振って弱い心にBye-Bye
残った真実を信じたくない夜もある」

2004/07/11 Minako

その瞬間、春香の真後ろで大きくシャンシャンシャンと鈴が鳴った。
息を合わせてハープが歌いだす。客席の後ろからパーカッションの 石川雅康がおどけた様子でステージに歩いていく。そして、続木力。
春香は息を呑み、それから、心全体を震わせてものすごく懐かしい声が降ってく るのを聞いた。

オレは笛は下手だから、後ろから鈴でも振るよ。頑張れ、春香!ってね。

溢れて来る涙を止められなかった。

Cry for the day
Cry for the day

美菜呼の声がつきささる。
せつなく、そして優しく温かく。

大丈夫。頑張るね。わたし、頑張るね。

2004/07/11 Minako
2004/07/11 Shinji
2004/07/11 Minako


春香は涙を拭うと再びオレンジ色の光の向こうを目で探した。
ご飯食べに行きます?と2本の指を前後に口の前で振ってみせる三波に、 春香は急いで笑顔をつくると、今度は大きく頷いてみせた。

21:59:59

なんて事だってあるかもしれないよね、
と考えながらライヴ楽しんでました。
それくらい、最後に、客席後方からブルースハープとタンバリンが 響いたラストソングはかっこよかった。
僕は美菜呼のライヴに行く度に、そこに集まった一人一人が持っている物語を 思ってしまいます。美菜呼のライヴって、美菜呼だけが主役じゃない。
そこにいるみんなもちょっとずつ、主役。
だって、美菜呼の決めゼリフはいつだって
「みんな、素敵です!」だから。
そんなみなさんの次の舞台は、
吉祥寺に用意されてます!


2004/07/11 Minako

P.S. 続木さんご結婚おめでとうございます。
僕はもうハープがなかった時の「平凡」が思い出せません。

<こよよ>

2004/07/11 Mr.Tsuzuki
  2004/07/11 Mr.Hiraishi   2004/07/11 Mr.Ishikawa  
2004/07/11 The members
  2004/07/11 Minako   2004/07/11 The members  
2004/07/11 Minako
2004/07/11 The members
2004/07/11 Minako & the members

 

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